片親疎外に関する意見交換会 ~片親疎外と子供の本音~
日本で子供の権利保護に取り組む参議院議員の嘉田由紀子様、梅村みずほ様をお招きし、PASG(国際片親疎外研究学会)の創設者であるWilliam Bernet博士と弊団体のKenらが意見交換会を開催しました。片親疎外とは、子供の本音とは、是非ご覧ください。
片親疎外とは?
そもそも「片親疎外」とはなんですか?
バーネット博士:
子供(多くは両親の別居や離婚に面した子供)が、正当・妥当といえる理由もなく、非同居親との関係構築や関係維持を拒否する精神状態のことです。(実際に親から虐待やネグレクトを受けた結果として疎遠になっている場合はこれには該当しません。)(*1)
どの親も基本的に完璧ではなく、それぞれ子供に嫌われる理由に一定程度の心当たりを持つのが(逆に)普通の親ですから、片親疎外の問題の見分け方、本質的な特徴というのは、「子供が片親との関係を拒絶する理由が、その親子関係をも断絶するに値するどうか」という点です。片親疎外の被害を受けている子供達は、そこが不釣り合いなものになっている事例が非常に多く見られます。
*1:広義には、同居親が子供をそのような状態に仕向ける行為、もしくは子供が片親を疎外する行為を意味する場合に用いられることもあります
国際・米国基準の精神医学書では、片親疎外はどのように扱われていますか?
バーネット博士:
DSM-5(*2)では「親子関係のストレスによる子供の障害(CAPRD、Child Affected by Parental Relationship Distress)」として表現され、その原因の一つとして(文章の形で)片親疎外が記載されています(*3)。ICD-11(*4)も同様に、「養育者と子供の関係の問題(CCRP、Caregiver Child Relationship Problem)」との文言でそれが表現されています。
なお、AFCC(*5)、 NCJFCJ(*6)は、片親疎外が上記精神疾病を引き起こしうる児童虐待であると明言しています(*7)。それ以前に、既に多くの国や州において、片親疎外には各種刑事・民事のペナルティが規定されていますので、「片親疎外は児童虐待である」という認識は、既に一般化しているものと言えます。
*2:米国精神医学会発行、「精神疾患の診断・統計マニュアル」
*3:Child Affected by Parental Relationship Distress (両親の関係悪化による子供への影響)
*4:国際疾病分類、第11回改訂版
*5:米国家庭裁判所協会(Association of Family and Conciliation Courts)
*6:少年及び家族裁判所判事全国協議会(National Council of Juvenile and Family Court Judges)
*7:AFCC & NCJFCJ Acknowledge Parental Alienating Behaviors Are a Cause of Parent-Child Contact Problems (片親疎外の振る舞いが親子交流悪化の原因に)
片親疎外の科学的側面について
「片親疎外は児童虐待である」と裏付ける根拠にはどのようなものがありますか?
バーネット博士:
定性的には、文化・言語・歴史的背景等が異なる様々な国において、古くからこの問題は児童虐待であると定義されています。つまり、社会的要因によらず、人類として生まれた以上、子供は両親からの愛情を欲するものであって、それ故、子供から(正当・妥当な理由なく)親を奪い上げる行為は、虐待と定義されています。
定量的な根拠は、これまで数多くの論文で示されてきたところですので、代表的なものを以下にご紹介します。
- Parental Alienation as a Form of Emotional Child Abuse (精神的児童虐待としての片親疎外)
- Parental Alienation Behaviors and Family Violence (片親疎外の振る舞いと家庭内暴力)
- The Five-Factor Model for the Diagnosis of Parental Alienation (片親疎外診断の5要素モデル)
逆に「片親疎外は児童虐待ではない」と主張される方はおられますか?その方々の根拠はどのようなものでしょうか?
バーネット博士:
一部、「片親疎外などそもそも存在しない」、「同居親の言動とは関係なく自然にそうなっているから虐待ではない」といった主張をされる方はおられます。しかし、目立った科学的根拠はなく、一部の極端な思想を抱く方々がそう述べておられるのみです。
社会学的側面から見た片親疎外
心理学以外の、例えば社会学的な観点から考えても、片親疎外は子供が一方親の有する社会的資源(知性や職能等)にアクセスする行為を妨げるものですから、子の福祉を害するものと考えますが、そういった議論は米国内でも行われてきましたか?
バーネット博士:
その観点は正にその通りです。
ですので、基本的に、「子供を親に会わせない行為」自体は、子供の発育に多大なる害悪を与えるものとの社会通念が形成されています。その上で、「そのような害悪を積極的に子供に与えてまで子供を親と会わせない方が良いケースとは、どういうケースなのか」という点が、主な焦点となっています。
片親疎外の見分け方
片親疎外に苦しんでいる子供達を見分ける際の基準はありますか?
バーネット博士:
5つの基準があります。
①一方親と暮らす子供が現に非同居親とのアクセスを拒否していること
②その非同居親と子供との間には以前に良好な関係にあったこと
③子供に拒否されるに値するような、非同居親の虐待等の事実がないこと
④同居親に子供と非同居親との親子関係を悪化させようとする行為があること
⑤子供が非同居親を拒否する理由が、一般通念と照らし合わせて、非同居親を拒否するに値しないこと
バーネット博士は米国内の裁判所の実務で片親疎外に苦しむ子供達をどのように見分けてきたのでしょう?
バーネット博士:
子供の年齢等にもよりますが、実は非常に簡単なものです。
まず、子供に対してインタビューを行い、子供が「親に会いたくない」と述べていたら、片親疎外を疑います。理由は、実際にこれらの子供達をリラックスできる環境で非同居親と何度か会わせてみると、ほぼ全ての事例において、「なんでもっと早く私に会いに来てくれなかったの」と真逆のことを言い始めるからです。
逆に、虐待やネグレクトを受けた子供達は「親に会いたい」と言います。そして「でも、殴るのはやめてほしい」、「今度は、ちゃんと私と向き合って話をしてほしい」といったことを述べます。
そして、この場合に限って、その子供を親と会わせるべきか、虐待やネグレクトの事実関係など、慎重に見極める作業が後に続く形となります。
「いずれにせよ子供は親に会いたがる」ということでしょうか?
バーネット博士:
そうです。少なくとも私は、生まれながらにして親を嫌う子供を見たことはありません。
米国の家庭裁判所が子供の心理状況を調査する際の手順はどのようなものですか?
バーネット博士:
州によって若干の差はありますが、以下のような流れになります。
①夫婦を同席させてインタビューを行う
②夫婦それぞれから個別でインタビューを行う
③一方親と子供を同席させてそれぞれインタビューを行う(両方の親で実施)
子供達を片親疎外から守る為の社会制度
社会制度の面において、子供達を片親疎外から守るために必要な措置はどういったものでしょうか?
バーネット博士:
他の何にも増して、公的機関への教育が必要です。特に児童保護の業務に関わる機関。次いで裁判所です。
私自身もテネシー州の裁判所職員らへの教育を担当しましたが、それらの人々が片親疎外の問題を理解していないと、社会全体の子供達に対して非常に深刻な問題を引き起こすことになります。
子供達を片親疎外から救う為に取られている措置はどのようなものですか?
バーネット博士:
段階的な措置がとられていますが、まずは、正しい専門知識を兼ね備えた裁判所職員が、片親疎外の精神状態に陥った子供達にカウンセリングなどの治療を受けるように裁判所命令を下し、これを皮切りとして、健全な親子の絆を取り戻すまでのプログラムが組まれます。
それら児童福祉の保護に向けた社会制度が充実している国、参考とすべき国はどの国でしょうか?
バーネット博士:
米国も含め多くの国がこれに取り組んでいますが、特にデンマークなどは充実した制度設計を行っています。
意見交換
共同監護の重要性、片親疎外の問題の深刻さは、子供の発育が進めば進むほど顕著に現れる、という理解で合っていますか?
バーネット博士:
その通りです。自我が成長すればするほど、子供の意見は表面に出てくるからです。
日本の単独親権は旧来の家制度に起因するという見方があります。かつて、子供は家長である男性の所有物として扱われ、その後、男女平等が謳われると、男女平等を飛び越えた女性権威の主張にまで及んでしまい、気づけば、子供が女性の所有物として扱われる風潮まで見られてしまいました。そして、今、ようやく、日本では本来的な意味での「男女平等」に移り変わる兆候が出始めているようにも感じています。
バーネット博士:
100〜50年前の米国でも同じような現象はありました。米国でも、過去、子供は男性の所有物で、その後、極度のフェミニズムが生じてしまい、気づけば、子供が女性の所有物として扱われ、その当時の様子は、映画「クレイマークレイマー」などで広く知られているところです。そして約50年前、社会全体が「真なる男女平等とは何か」という点を考え始め、アリゾナ州が初めて共同親権を導入したところ、瞬く間に市民権を得て全米へと広がりました。
PCB Ken:
NPOで活動する際、男性である私が親子断絶問題を説いても真剣には受け止めてもらえず、他方、幼児を連れ去られてパニック状態に陥る母親の話をすると、「親子交流は必須だ!」と、ご理解を示して下さる方もいます。この問題はジェンダー論争に引き込まれがちで、それ自体が一種のパラダイムであるようにも思われ、「子供にとっては父親も母親も等しく大切な存在である」という点を、一人でも多くの方々に見つめなおして頂きたいと感じています。
最後に、バーネット教授が片親疎外の問題に取り組むに至った背景をお聞かせいただけますか?
バーネット博士:
最初は、離婚を経験した友人の事例を聞き、単に関心を抱いただけでした。
それから、実際に私が裁判所で親権の問題を担当し、実務を進める中で、片親疎外という深刻な問題が非常に数多くの子供達を襲っている現状を知るようになりました。
以降、主な活動領域を臨床からアカデミックな分野へと移し、より多くの人達にこの問題を知ってもらい、一人でも多くの子供達を助け出そうと考え、現在に至ります。
バーネット博士、嘉田議員、梅村議員、大変勉強になりました。ありがとうございました。
ありがとうございました。
意見交換会の概要原文(英語)
最後に
NPO法人親子の絆forJAPANでは、高校生から主婦の方まで様々な方がボランティアスタッフとして活動してくださっています。一緒に活動してくださる仲間を求めています。少しでも検討してみようかなというお気持ちをいただけましたら幸いです。
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